チャンス
お菓子の先生がサロンをオープンした。初日は、混むだろうから少し落ち着いてから出かけようと予定していたが、ふと思いたち、オープニングの日にお伺いした。考えてみれば、オープニングの日は、たった一日しかない特別な日だ。
豪華な花が大きく飾られたエントランスを入り、奥の白いテーブルへと案内される。店内は、それほど混んでいない。天井が高く、白を基調としたインテリアの中に、少しだけ取り入れられた淡いブルーに先生の想いを感じた。マリー・アントワネットは、この淡いブルーを好んで用いたそうだ。
メニューには、先生がお得意とするお菓子の名まえが並ぶ。その中でも格別に評判の高いチーズケーキを注文した。飲み物とケーキが運ばれてくると、私たちのとなりの席に、一人の中年男性が案内された。他のテーブルは、ほとんどが女性のグループなので、ちょっと目立った。
まもなく、先生がその男性の前にいらして挨拶をしている。どうやら、お仕事の関係の方らしく、一緒に席につき話を始めた。すぐお隣りだったので、話がよく聞こえてくる。私は私で、自分たちの会話に意識を戻したが、ひとつの印象的な会話が耳に飛び込んできた。
男性「この不景気で予算が出ないのです。」
先生、ちょっと間を置き落ち着いた声で言った。
「だからこそある、チャンスがある。」
これこそ、先生の言葉だと思った。先生はどこまでも前向きなのだ。この不景気と言われているときに優雅なティーサロンをオープンするのほどの人だ。決して後を振り返らないし、自分の夢をかなえるために突き進んでゆく。何かができないことを環境のせいにしない。いつも「どうしたら出来るか?」を考えることに集中している。そんな先生の姿を、何度も見てきた。そうして私たちをたくさん喜ばせ励ましてくれた。
「だからこそある、チャンスがあると思うんです。」
私の気持ちに、すーっと入ってきたその言葉は、私の中で力強く響く。
「だからこそあるチャンスがある。」
つまり、どんな状況下でも、それなりのチャンスがあるということだ。大切なことは、そのチャンスを見つけ出す力、出会う力、引き寄せる力を持つことなのだろう。
そのような力をつける一つの方法として、先生は「本物に触れる」ことを教えてくれた。本物には、時代を超えて生き抜いてゆく力がある。例えば、お菓子に始まって芸術や文化、歴史、音楽など、「本当に良いもの」に触れる機会を持つことは大切だ。こんな時代だから、なおさらかもしれない。なぜなら、「本当に良いもの」を感じ取る感性があれば、どんな時代にもある、「すばらしいもの、輝くもの」を、きっと見つけることができるはずだから。
Rie
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