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2009年5月

三人四脚

家の近所に大きな家が建った。大通りに面した一等地で、その前を通るたびに、家の中はどんなふうになっているのだろうと、気になった。

先日その家の前を通りかかると、門の前に展覧会の案内が置いてあった。家の中にアートスペースがあるらしい。

週末早速、その展覧会に出かけてみた。看板に従って露地奥の玄関へ。玄関は二重になっていて、一つ目のドアが開いている。奥にもう一つドアがあり、その手前にある下り階段が、地下のアートスペースにつながっていた。

花が飾られた踊り場を通り、地階へ。展示室の手前に、小さなスペースがあり、短い廊下で展示室につながっている。この手前の空間で、一息つけるのはいい。街の喧騒から離れ、心の雑音をそこに置き、短い廊下をくぐり抜けると、異空間へ入って行くような感覚になる。

展示室の壁には10枚ほどの水彩画が掛かっていた。部屋のまん中には、絨毯が敷かれ、赤い模様のクラッシックなスタイルの応接セット。その横には、木のテーブルと椅子。すてきなお宅のリビングルームという雰囲気。窓もあり、地下という印象はない。

画家さんは、初めて耳にするお名前。明るい色調の花や木々、自然の風景など、見ていてほっとする気持ちの良い絵だった。「木漏れ日の中で」、「朝のよろこび」、「Peace」、「ありがとう」など、タイトルもなかなかいい。

絵の額は、ひとつひとつ異なる木を用い、木の原型や皮を残したものだった。不ぞろいな幅や長さの額は、絵を型にはめず、かえって活き活きとさせているようだ。椅子に腰掛けて、森の絵を見ていたら、どこかの森で、別荘の一室から雑木林を眺めているような気分になった。

その作家さんが、声をかけてきた。とっても柔らかな声、明るい表情、そして低い物腰。「絵を見てくださり、ありがとうございます。」と、私に深々とお礼を言ってくださる。お話をしていて、自然とやさしい気持ちにさせられてしまうステキな女性だった。よろしければと、紅茶とお菓子を出してくださった。その方のご主人も出ていらして、お話しする。絵は奥様が描き、タイトルはご主人がつける。

橙色の絵の前で、「昨日の朝ひらめいて、「ありがとう」というタイトルにしたんです。」と言うご主人は温和な方。「これは、黄昏の絵なんですけれどねぇ。」と笑いながら奥様。とてもお似合いのご夫婦で、「ありがとう」は、ご主人から奥様へのメッセージかもしれないと思った。二人で一つの作品を作るから、二人三脚だと言う奥様。お茶を運んでくださった感じのよい若い女性は、お二人の娘さん。これは三人四脚だな、と思う。

いい絵を鑑賞し、おまけにステキな家族にも出会えた。
このスペースに入ってきたときとは全く違う気持ちで玄関を出る。新しい空間、新しい出会い。木々の緑が先ほどよりも、輝いているようで、大きく息をする。

自然と笑みがわいてくる。このうれしい気持ちは、どんな未来につながってゆくのだろう。

Rie

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チャンス

お菓子の先生がサロンをオープンした。初日は、混むだろうから少し落ち着いてから出かけようと予定していたが、ふと思いたち、オープニングの日にお伺いした。考えてみれば、オープニングの日は、たった一日しかない特別な日だ。

豪華な花が大きく飾られたエントランスを入り、奥の白いテーブルへと案内される。店内は、それほど混んでいない。天井が高く、白を基調としたインテリアの中に、少しだけ取り入れられた淡いブルーに先生の想いを感じた。マリー・アントワネットは、この淡いブルーを好んで用いたそうだ。

メニューには、先生がお得意とするお菓子の名まえが並ぶ。その中でも格別に評判の高いチーズケーキを注文した。飲み物とケーキが運ばれてくると、私たちのとなりの席に、一人の中年男性が案内された。他のテーブルは、ほとんどが女性のグループなので、ちょっと目立った。

まもなく、先生がその男性の前にいらして挨拶をしている。どうやら、お仕事の関係の方らしく、一緒に席につき話を始めた。すぐお隣りだったので、話がよく聞こえてくる。私は私で、自分たちの会話に意識を戻したが、ひとつの印象的な会話が耳に飛び込んできた。

男性「この不景気で予算が出ないのです。」

先生、ちょっと間を置き落ち着いた声で言った。

「だからこそある、チャンスがある。」

これこそ、先生の言葉だと思った。先生はどこまでも前向きなのだ。この不景気と言われているときに優雅なティーサロンをオープンするのほどの人だ。決して後を振り返らないし、自分の夢をかなえるために突き進んでゆく。何かができないことを環境のせいにしない。いつも「どうしたら出来るか?」を考えることに集中している。そんな先生の姿を、何度も見てきた。そうして私たちをたくさん喜ばせ励ましてくれた。

「だからこそある、チャンスがあると思うんです。」

私の気持ちに、すーっと入ってきたその言葉は、私の中で力強く響く。

「だからこそあるチャンスがある。」

つまり、どんな状況下でも、それなりのチャンスがあるということだ。大切なことは、そのチャンスを見つけ出す力、出会う力、引き寄せる力を持つことなのだろう。

そのような力をつける一つの方法として、先生は「本物に触れる」ことを教えてくれた。本物には、時代を超えて生き抜いてゆく力がある。例えば、お菓子に始まって芸術や文化、歴史、音楽など、「本当に良いもの」に触れる機会を持つことは大切だ。こんな時代だから、なおさらかもしれない。なぜなら、「本当に良いもの」を感じ取る感性があれば、どんな時代にもある、「すばらしいもの、輝くもの」を、きっと見つけることができるはずだから。

Rie

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