三人四脚
家の近所に大きな家が建った。大通りに面した一等地で、その前を通るたびに、家の中はどんなふうになっているのだろうと、気になった。
先日その家の前を通りかかると、門の前に展覧会の案内が置いてあった。家の中にアートスペースがあるらしい。
週末早速、その展覧会に出かけてみた。看板に従って露地奥の玄関へ。玄関は二重になっていて、一つ目のドアが開いている。奥にもう一つドアがあり、その手前にある下り階段が、地下のアートスペースにつながっていた。
花が飾られた踊り場を通り、地階へ。展示室の手前に、小さなスペースがあり、短い廊下で展示室につながっている。この手前の空間で、一息つけるのはいい。街の喧騒から離れ、心の雑音をそこに置き、短い廊下をくぐり抜けると、異空間へ入って行くような感覚になる。
展示室の壁には10枚ほどの水彩画が掛かっていた。部屋のまん中には、絨毯が敷かれ、赤い模様のクラッシックなスタイルの応接セット。その横には、木のテーブルと椅子。すてきなお宅のリビングルームという雰囲気。窓もあり、地下という印象はない。
画家さんは、初めて耳にするお名前。明るい色調の花や木々、自然の風景など、見ていてほっとする気持ちの良い絵だった。「木漏れ日の中で」、「朝のよろこび」、「Peace」、「ありがとう」など、タイトルもなかなかいい。
絵の額は、ひとつひとつ異なる木を用い、木の原型や皮を残したものだった。不ぞろいな幅や長さの額は、絵を型にはめず、かえって活き活きとさせているようだ。椅子に腰掛けて、森の絵を見ていたら、どこかの森で、別荘の一室から雑木林を眺めているような気分になった。
その作家さんが、声をかけてきた。とっても柔らかな声、明るい表情、そして低い物腰。「絵を見てくださり、ありがとうございます。」と、私に深々とお礼を言ってくださる。お話をしていて、自然とやさしい気持ちにさせられてしまうステキな女性だった。よろしければと、紅茶とお菓子を出してくださった。その方のご主人も出ていらして、お話しする。絵は奥様が描き、タイトルはご主人がつける。
橙色の絵の前で、「昨日の朝ひらめいて、「ありがとう」というタイトルにしたんです。」と言うご主人は温和な方。「これは、黄昏の絵なんですけれどねぇ。」と笑いながら奥様。とてもお似合いのご夫婦で、「ありがとう」は、ご主人から奥様へのメッセージかもしれないと思った。二人で一つの作品を作るから、二人三脚だと言う奥様。お茶を運んでくださった感じのよい若い女性は、お二人の娘さん。これは三人四脚だな、と思う。
いい絵を鑑賞し、おまけにステキな家族にも出会えた。
このスペースに入ってきたときとは全く違う気持ちで玄関を出る。新しい空間、新しい出会い。木々の緑が先ほどよりも、輝いているようで、大きく息をする。
自然と笑みがわいてくる。このうれしい気持ちは、どんな未来につながってゆくのだろう。
Rie

