記憶の案内人
朝起きると、家中の窓を全開にして、キッチンとお風呂場の換気扇を付け、空気の総入れ替えをする。家の中の空気がさわやかになったところでお香をつける。これで、気分よく一日のスタートを切れる。
お香選びは、なかなか難しく、高ければ良いというものでもなく、安いものでは、かえって空気を入れ替え直さなければならないようなものもある。最近は香りを楽しむためのお香が数多く出ているが、店頭でお香本体の香りを嗅いでみても、実際に焚いてみないと好みの香りかどうかはわからない。
先日、炭から作られたお香をみつけた。焚いてみたらとても懐かしい香りがした。それは、幼い頃によく訪れた母の実家の匂いだった。昔の木造民家で、居間にも客間にも囲炉裏があった。寒い季節に訪れると、囲炉裏では薪が赤く燃えていた。私はそれがめずらしくて、いつまでも飽きずに囲炉裏の側にいた。灰に模様をつけて遊ぶのも絵を描くようで楽しかったし、新しい薪をくべるときは目を輝かせながら見ていた。
お風呂も、薪で沸かしていた。これが、とても面白くて祖母に頼み込んで、手伝わせてもらった。最初に、燃えやすい松の小枝を風呂釜に詰め、それから、新聞紙をぎゅっと固めて先っちょに火をつけて入れる。松の小枝がパチパチと音を立てて勢いよく燃え出したら、薪を一、二本入れる。薪に火がついたら、次の薪を入れてゆく。こんなに面白いことをするのは、初めてだった。あんまり楽しすぎて、ついつい沸かしすぎて、お湯はとっても熱くなってしまった。あの、懐かしい香りの中で祖母と叔父は苦笑いをしていた。薪割りもさせてもらったが、こちらはなかなか一筋縄ではいかず、見て楽しむだけにした。薪割りの音が体に心地よく響いたのを思い出す。
ときに、香りは記憶の案内人となり、過ぎた日を鮮明に蘇らせてくれる。
新しい一日の始まりに懐かしさに包まれて、古いものと新しさが私の中で溶け合う日は、なつかしい未来が、ゆっくりと目を覚ます。
Rie
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