フレンチ?イタリアン?
「こちらがイタリアン、奥がフレンチ。最初は、イタリアンをお楽しみください。」
まるで、料理の話みたいだと思いながら、演奏会のプログラムを見る。
教会的な雰囲気の漂う100席ほどの小さな円形ホール。アーチ型の天窓からあわい光が射しこむ。
今日はチェンバリストの知人のリサイタル。私は、チェンバロを弾く様子をよく見たかったので一番前の席に座る。目の前には、2台のチェンバロ。イタリアンとフレンチ。イタリアンの方は、あっさりしたデザインで素材の色を活かし、脚もすっきり、モダンな感じがする。フレンチは装飾のラインが入っていて、脚は網を編んだようなデザイン。こうして並べてみると、イタリアンとフレンチの違いがわかりやすい。
チェンバロの演奏は、ラジオなどで何度か聞いたことがあった。音の響きがやさしくて好きな楽器のひとつ。それを生演奏で聞くのは初めてだった。
色とりどりの花が咲いているお花畑のようなドレスに身をつつみ、彼女がチェンバロを弾き始める。
やはり、音の響きがやさしい。形はピアノに似ているし、もともとチェンバロから派生してピアノが出来たけれど、その音質はとても違う。チェンバロの音のやさしさに、うっとりしながら、この違いは何だろうと思い巡らす。ふと、チェンバロは、ギターやハープのように弦を弾いているのではないかと思い至る。リサイタルの後、チェンバロを見せていただいたら、確かに爪のようなもので弾く構造になっていた。
チェンバロは、生で聴いていただくのが一番いいのです、とチェンバリストの知人は言う。
小さなホールで、チェンバロの音につつまれていたら、中世の貴族たちがサロンで音楽を楽しんでいるイメージが浮かんだ。優雅なシャンデリア、クラッシックなソファ、絨毯、ドレスの長い裾。そんな室内で楽しむのにぴったりの楽器だと思う。
イタリアンのチェンバロを聞くパーティーなら、イタリアンスタイルのテーブルセッティングがいいだろうか。楽器のスタイルに食卓のセッティングを合わせたりしたのだろうか。食卓芸術やお料理の世界だけで知っていたイタリアンとフレンチが、チェンバロの世界に広がって、いろいろなイメージが湧いてくる。今まで知らなかったことを知ることで、今まで知っていた世界も広がるときは、とてもわくわくする。アフタヌーン・ティーのBGMがチェンバロの生演奏なら、どんなにすてきだろう。
週末、我が家のマンションのリビングで、久しぶりに丁寧にミルクティーを入れ、新しく買ったフランス人チェンバリストのCDをかけてみた。窓の外に見えるのは、空とお隣のビルだけれど、音楽と一緒に気持ちは中世へと旅をした。
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