9リットルと7人のソムリエ
ソムリエさんが、床に敷いたマットの上にボトルを置いて上部のフォイルを剥がす。中から現れたコルクはやはり大きい。9リットル入りのシャンパン。普通サイズのシャンパン12本分だ。
シリーズのワイン・セミナー、最終回は、Tホテルのソムリエさん7人が勢ぞろい。一年の最後を飾るにふさわしい華やかなディナーとなる。
普段は、一人のソムリエさんが前菜からデザートまでのワイン選ぶ。それぞれにお得意の地域があるようで、フランスのワイン、ラテン系のワイン、めずらしくは日本のワイン、というように、毎回ソムリエさんの個性が感じられるセミナーが繰り広げられた。
ワインが大好きで、かつ、とても詳しい知人のおかげで、今年はこのセミナーに数回ほど参加して、奥深いワインの世界を少しだけ垣間見た。そのワインが生まれた土地の気候風土や文化に到るまで、話に耳を傾けていると、ワインを媒体に見知らぬ国を旅しているような気分になる。「ワインは文化」と言われるのは、こういうことなのかしら、などと思いながら、シャンパンが開けられていくのを眺めていた。
大きなコルクに巻かれたワイヤーは太く、ソムリエさんの細い指が、ちょっと痛そうだ。いよいよ、コルクの頭に手をかける。どんな大きな音がするのだろう。手元が狂ってコルクが天井にでもぶつかったら、穴があいてしまうのではないのだろうか。
ところが、なかなか栓は抜けない。若いソムリエさんは細身だ。こんなに大きなシャンパンの栓を抜く機会は、そう多くはないのだろう。かなりの力でコルクを回そうとするが、コルクはびくともしない。
スピーカーからは、乾杯前のお話をしているソムリエさんの声が流れる。このお話の間に、各テーブルのグラスにシャンパンが注がれる予定だったのだろう。話が終わろうとしているのに、シャンパンは来ない。心配をしたソムリエさんが二人、三人とシャンパンと悪戦苦闘しているソムリエさんのところへ集まってきた。
一人目のソムリエさんの手が赤くなっている。手首の痛みを取り払うように手を何度も振りながらギブ・アップ。二人目のソムリエさんが挑戦し続ける。そのころにはソムリエさん7人がボトルのまわりに大集合。みんな真剣な眼差しで、私もドキドキしてくる。
果たして、無事に栓は抜けるのか。コルクは動かず、三人目、中堅どころのソムリエさんに交代。彼は力づくでコルクの上部をちぎりとる。この時点で、ちょっとホッとする。あとは、ワインオープナーを入れ込む。
一同、息を飲んで見守る。普通のワインの、おそらく何倍もの力を使ってコルクを引き抜くソムリエさんの顔が真っ赤になっている。
抜けた!今までの緊張感は解け、パッと笑顔になったソムリエさんたちに拍手が起きる。予定の時間をかなり押している。シャンパンの栓を抜いたソムリエさんが、早業のように味を確認して頷く。その間にも、ボトルを抱えたソムリエさんは奥へと移動し始める。
シャンパンは一旦サーバーに移されてから、各テーブルのグラスに注がれた。ボトルが大きいので直接グラスに注ぐことはできないそうだ。サーバーに移した分、グラスに注ぐときには泡が少なくなってしまうとソムリエさんが言ったけれど、口に含むと期待以上にシュワシュワとはじけたシャンパン。やはりシャンパンはしあわせの味がする。
これほどの大きなシャンパンはホテルの冷蔵庫にも入らず、大きな入れ物に氷を入れて冷やす。シャンパンを開けてから、万が一、出せないような状態であれば、その代わりはない。これだけの大きさのボトルを開けるのはひとつの賭けです。と、ソムリエさんたちの裏話も聞かせていただく。
ワインのボトルの大きさは、基本的にハーフかフルボトルの2種類しかないが、シャンパンはお祝いの席で使われるので、いろいろな大きさのボトルがあるそうだ。きっと、豪華なパーティーなどで、飲まれることが多いのだろうが、コルクを抜くのはなかなか至難の業だろう。
めったにお目にかかることのできない9リットルのシャンパン。今年の最後に、大きな花が添えられた気分だ。コルクを抜くのは大変だったけど、飲んだときのうれしさも大きい。
今年は、ちょっと大変なこともあったけれど、けっこう充実した一年だったと思う。終わり良ければすべて良し。シャンパンのはじける泡のように、うれしく楽しく新年を迎えよう。
Rie

